6.法定労働時間週44時間の特例措置の廃止
第6の検討案は、「週44時間」という労基法上の法定労働時間特例(通常週40時間+特例8時間)を廃止し、実質的に標準労働時間制度を見直すというものです。
背景と意義
- 現行法では、週40時間を基準としながら、業種・企業規模によっては「週44時間」という特例措置が認められてきました。
- 働き方が多様化し、出勤・勤務形態・テレワーク・副業といった条件が変化している中で、週44時間特例のあり方が現状の働き方に適合していないという指摘があります。
- 標準時間の整備・労働時間の透明化・過重労働抑制という観点から、特例の廃止・再定義が検討されています。
検討内容
- 具体的には、週44時間特例を廃止し「原則週40時間」を徹底するという方向が示唆されています。
- もちろん、業種・企業の実態を踏まえた経過措置・例外処理・変形労働時間制などの併存が検討されています。
- また、「法定労働時間」「所定労働時間」「変形労働時間制」「フレックスタイム制」等の関係整理、実働時間の管理・制度設計もあわせて論じられています。
実務インパクト・留意点
- 企業側は、所定労働時間・法定労働時間の整理・勤務設計の見直しを早めに検討する必要があります。特に「週44時間で労働時間を設計している」企業では、40時間ベースへの移行シナリオを検討すべきです。
- 勤怠管理・時間外労働の上限・深夜・休日出勤等の制度対応を含めて、就業規則・労使協定(36協定)等の改定を視野に入れる必要があります。
- 労働者側としても、「実働時間40時間」という意識がより明確になるため、勤務時間・残業時間・休息時間の把握がより重要になります。
- また、残業削減・フレックス制度・短時間勤務・時差勤務など、働き方の柔軟性を保ちながら実働時間を抑える制度設計が鍵となります。
7.フレックスタイム制・テレワーク対応の柔軟化
第7の検討案は、労働基準法の枠組みにおいて、フレックスタイム制あるいはテレワークを含めた勤務制度の柔軟化・部分活用を可能とする見直しです。 ツギノジダイ+1
背景と意義
- コロナ禍を契機として、テレワーク・リモートワーク・複合型勤務が急速に普及し、「通勤・出勤」「オフィス勤務」という従来の枠組みだけでは説明しきれない働き方が増えています。
- これに対して、フレックスタイム制(始業・終業時刻を労働者が一定範囲で選択できる制度)や、テレワーク時のみなし労働時間制などの活用が議論されていますが、現行制度には適用条件・制度的制約が多く残っています。
- 働き方の柔軟性・多様性を確保しつつ、労働時間管理・健康確保・勤務間インターバル・実働時間把握といった観点を制度設計に反映する必要があります。
検討内容
- 例えば、「テレワークを含めた勤務日に部分的にフレックスタイム制を適用可能にする」など、制度範囲の拡大・運用ハードルの低減が検討されています。
- また、テレワーク時の「みなし労働時間制」や「事業場外労働のみなし時間制」の取り扱いについても、継続的に検討されており、働く場所・勤務時間の多様性に対応できる制度設計が論点です。
- 就業規則・労働協定・勤務規程・勤怠管理システム等において、柔軟な勤務制度を前提とした運用基盤を整備することが求められます。
実務インパクト・留意点
- 企業側では、勤務制度の見直し・柔軟勤務制度(フレックス・テレワーク・ハイブリッド勤務)導入・勤怠管理システムの整備・労働時間管理・健康管理を前提とした制度設計が必要です。
- 労働者側にとっては、「どこで働くか」「何時から何時まで働くか」「実働時間はどうなるか」「休息時間・勤務間インターバルは確保されているか」という点に、より関心を持つ必要があります。
- また、制度変更にあたっては、労使の合意・就業規則・労働契約書の整備・従業員教育・説明が不可欠です。柔軟に働く制度がある一方で、勤務時間管理・成果責任・健康配慮が疎かにならないよう配慮する必要があります。
8.「つながらない権利(オフタイム確保)」に関するガイドライン検討
第8の検討案は、「働くとき・働かないとき(休むとき)の境界」を明確にし、例えばメール・チャット・電話等の業務連絡が勤務時間外や休日にも及ぶことがある現状を踏まえ、「つながらない権利(オフタイム確保)」を制度的に保障・促進するというものです。
背景と意義
- デジタルツール・スマートフォン・クラウド勤務などにより、就業時間外・休日にも労働関連の連絡が入りやすく、「働きっぱなし」になってしまうリスクがあります。
- 働き手の私生活・休息・家族との時間・睡眠などの確保という観点から、勤務時間以外の「つながらない時間(オフタイム)」を守ることが、健康・メンタルヘルス・労働意欲にとって重要です。
- 法制度として明文化することで、企業における運用意識・管理体制を向上させることができます。
検討内容
- ガイドライン策定を通じて、企業に対して「勤務時間外・休日の業務連絡削減」や「休息時間確保」「出退勤時刻以外での連絡の制限」などの指針を示す方向が検討されています。
- 労働時間管理・深夜勤務・休日出勤・テレワーク環境下での勤務者の管理・オフタイム確保の仕組み設計が対象となります。
- 企業においては、制度導入・就業規則整備・就労環境整備・労使協定・従業員教育が求められます。
実務インパクト・留意点
- 例えば、勤務終了後に業務チャット・メール送信を制限する、休日中は業務連絡をしないなどのルールを設けることが考えられます。
- 企業側は「オフタイム確保」が守られているかをモニタリングする仕組みを整えるとともに、勤務時間外の過度な業務負荷・連絡過多を防ぐ運用設計が必要です。
- 勤務者個人としても、勤務時間外に業務連絡が来た場合の対応・休息確保の重要性を認識し、自己の働き方・通信手段管理を含む意識づけが重要です。
- また、この論点は特にテレワーク・リモート勤務・複業・ICT勤務の場面で顕著となるため、こうした勤務形態を採用している企業では先取り的に制度設計を進めておくことが望まれます。
9.労働者・事業・働く関係の枠組み見直し
(「労働者」の定義・「事業」の概念・労使コミュニケーション)
最後の第9の検討案は、労働基準法の根幹にある「労働者」の定義や「事業」「事業場」の概念、さらには労使間コミュニケーション(過半数代表・労働組合・労働者代表)の仕組みを、変化する働き方・雇用形態に即して見直すというものです。
背景と意義
- フリーランス・ギグワーカー・プラットフォームワーカー・テレワーク勤務者・プロジェクト単位勤務者など、「従来の会社に雇用されている典型的な労働者」とは異なる働き方が急速に増えています。
- 現行の労基法では「労働者」を「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義していますが、この定義が現代の働き方を十分にカバーしていないという指摘があります。 ツギノジダイ
- また、テレワーク・在宅勤務・場所以外での勤務等が増えるなか、「事業場」「使用者」「指揮命令系統」「勤務時間管理」の旧来の枠組みが通用しない場面も出てきています。
- 労使コミュニケーションにおいても、過半数団体のない事業場・複業者が所属する企業・ハイブリッド勤務の増加などで、意見集約・代表者選出・協議ルールに課題があります。
検討内容
- 「労働者性」の判断要件・事業主側の責任・使用者の範囲・賃金支払義務・法適用の範囲などを見直すため、チェックリストの導入や判例の整理も含めた議論が行われています。
- 「事業」「事業場」「就業場所」の概念について、テレワーク・リモート勤務・クラウド勤務者にも適用できるように制度整備を検討しています。
- 労使コミュニケーションの強化策として、過半数代表者制度・労働組合の活性化・労働者代表制度の見直しなども論点に挙げられています。
実務インパクト・留意点
- 企業側では、これまで「雇用されている/されていない」の枠で整理してきた雇用契約・労働時間管理・賃金支払義務のあり方を見直す可能性があります。派遣・業務委託・クラウドワーカー等を扱う場合の契約類型・対応がより複雑化する可能性があります。
- テレワーク・リモート勤務制度を採用している企業では、「どこで働くか」「勤務時間はどう管理するか」「労働者性・適用範囲はどうか」といった制度・実務フレームを早めに整理しておくことが望まれます。
- 労使コミュニケーションの環境整備(意見表明・労働者代表・協議の場設置)を見直すことが必要です。過半数組織のない職場でも、労働者の声を反映する仕組みが制度的に強化される可能性があります。
- 労働者側としては、自身の契約形態・勤務形態・就業場所・勤務時間管理がどのような制度適用を受けるかを確認しておくことが重要です。
10.管理監督者・裁量労働制対象者の適用見直し
背景と意義
- 現行の 労働基準法 では、いわゆる「管理監督者」や「事業運営の決定権を有する者」などについては、時間外労働・深夜・休日の割増賃金の適用除外となる規定があります。
- しかし、働き方の多様化・テレワーク化・ICT勤務・プロジェクト型勤務の拡大に伴い、「管理監督者」の実態が従来の枠組みに当てはまり難くなってきたという指摘があります。
- また、裁量労働制の対象者も、実務としての働き方・勤務実態・成果責任の実態と、制度の想定との間にギャップがあるとの指摘があります。
- こうした状況を踏まえ、制度上「時間外・休日割増」の適用除外としてきた枠組みを、現代の勤務実態に即して見直すことが検討されています。
検討内容
- 「管理監督者」としての要件をより明確化・実態に即したものに見直す可能性があります。
- 裁量労働制対象者において、勤務時間・実働把握・成果責任・健康確保の観点から、適用条件・運用ルールを強化・見直す方向が挙げられています。
- 望ましくは、管理監督者・裁量制対象者も「健康・休息・労働時間管理」の観点から保護を確保できる制度設計とすることが論点となっています。
- それに伴って、時間外割増・休日割増・勤務間インターバル・休息確保・連続勤務制限などの枠組みが、適用除外者に対しても一定のルールを設けるという方向が検討されています。
実務インパクト・留意点
- 企業側では、管理監督者・裁量労働制対象者の定義・適用実態・就業規則・制度運用の点検が必要です。これまで「適用除外だから実働時間を把握しない」という運用をしていた場合、見直しリスクがあります。
- また、適用除外者であっても、健康・休息・休日取得に配慮する制度運用が求められる可能性があります。管理監督者でも「過重勤務・休息不足」の問題が生じれば、法令上・社会的な批判上リスクとなります。
- 労働者側としては、「自分は管理監督者/裁量労働制対象者と言われているが、実態と合致しているか」「休息・休日確保されているか」「時間外・休日勤務の実態はどうか」を確認する視点が重要です。
- 制度変更に備えて、管理職・対象者への説明・教育体制を早めに整えることが望まれます。
●各検討案を総括的に見る:改正の狙いと背景
これまで10つの検討案を紹介してきましたが、これらを総合的に眺めることで、改正の全体像・狙い・背景がより明確になります。
主な改正の狙い
- 働き方の多様化・勤務場所・勤務時間の柔軟化に対応
テレワーク・副業・複業・クラウドワーカー・フリーランスなどが増加し、従来の「会社に出勤し、所定労働時間に基づいて働き、休日休暇を取得する」というモデルが前提となりにくくなっています。こうした状況に対して、制度を時代に合わせて整備する必要があります。例えば、フレックスタイム・テレワーク・部分勤務・変形労働時間制等を制度設計に反映するという検討案が挙げられています。 - 労働者の健康・安全・休息確保
長時間勤務・連続勤務・休息時間の短さ・休日未確保など、過重労働につながる実態が依然として存在します。改正案では、連続勤務上限・勤務間インターバル・法定休日の特定・有給休暇取得時の賃金保障など、労働者の生活・健康・休息を制度的に支える枠組みが強化されようとしています。 - 労働時間管理・制度運用の明確化・企業リスクの低減
休日・勤務時間・割増賃金・兼業・通算等の制度運用があいまいであると、企業・労働者双方にとってトラブルの温床となります。法定休日特定義務・割増賃金通算見直し・労使コミュニケーションの整備などを通じて、運用透明性・適法性・リスク管理の強化が図られようとしています。 - 時代に即した「働く/働かない」の区分明確化
ICT化・リモート勤務・スマートフォン勤務などによって、勤務時間・勤務場所・働く意識の境界があいまいになる傾向があります。「つながらない権利(オフタイム確保)」という論点も、こうした背景を踏まえて浮上しています。また、「労働者」「使用者」「事業場」「勤務場所」といった法制度の根幹にある定義自体を見直そうという議論も、制度更新の重要なテーマとなっています。
背景にある社会的要請
- 少子高齢化・人口減少が進むなか、働き手の確保・継続就労促進が喫緊の課題となっています。柔軟な働き方・健康確保・休息確保は、雇用維持・生産性向上・働き手定着にも直結します。
- コロナ禍以降、テレワーク・リモート勤務・在宅勤務が急速に普及し、「働くという形」が多様化しました。現行制度がこうした働き方に十分に対応できていないとの認識が広がっています。
- 働き方改革関連法の実施を経て、次のフェーズとして「最低基準を新しい働き方実態に適合させる制度改正」が求められています。
- 労災・メンタルヘルス・過重労働・ワークライフバランスの観点から、働き手の健康・安全を制度として確保することが社会的責任となっています。
改正の大きな特徴
- 単なる解釈改定ではなく、法律本文・制度構造・運用ルールの見直しという「抜本的改正」の可能性が高いとされています。
- 企業・働き手双方にとってインパクトが大きいため、準備期間・対応が求められています。
- 制度化にあたっては、業種・企業規模・勤務形態・勤務時間体制・シフト勤務・交替勤務など、実務の多様性をどのように制度として取り込むかがカギとなります。
- 改正後は、制度運用・管理体制・システム対応・労使協定・就業規則の見直し等が不可避となる見込みです。
●企業・事業所における「準備すべきポイント」
本改正を見据え、企業・事業所側が整理しておくべきチェックポイントをまとめます。
1. 現行制度・実態の棚卸し
まず、現状自社の制度・運用が改正案のどの論点に該当しているかを把握することが重要です。
- 自社の休日制度(法定休日・法定外休日)の定め方、勤務シフト・変形労働時間制の適用状況、休日取得実績など。
- 連続勤務状況(長時間勤務・休日未取得・シフト間休息時間)など。
- 勤怠管理・勤務時間実績・休息時間・交替制勤務・深夜勤務などの勤務設計。
- 有給休暇取得実績・取得時の賃金水準・制度設計。
- 副業・兼業を認めているか否か、兼業者管理・通算制度の運用状況。
- フレックスタイム制・テレワーク勤務・在宅勤務の適用状況・勤務時間管理方法。
- 労使協定・就業規則・勤務規程・労働者代表制度・意見聴取制度などの整備状況。
このような実態を「見える化」したうえで、改正案と照らし合わせてギャップを把握することが、次のステップの基盤となります。
2. 就業規則・勤務規程・労働協定の見直し準備
改正が制度化された場合、就業規則・勤務規程・雇用契約書・労働協定(36協定・変形労働時間制協定等)および副業・兼業ポリシー等の見直しが必要となります。
- 休日制度・法定休日の特定ルール・振替休日・代休制度の明文化。
- 連続勤務の上限規定・勤務間インターバル規定・休息時間確保・勤務パターン制御。
- 有給休暇取得時の賃金算定方法、休暇取得促進・取得実績管理。
- 副業・兼業者対応・労働時間通算制度の明文化、兼業ガイドライン・契約書条項の整備。
- フレックスタイム制・テレワーク・在宅勤務制度の整備、勤務時間管理方法・出退勤管理・実働把握。
- 労使コミュニケーション体制の見直し(過半数代表・労働者代表・意見聴取・協議の仕組み)など。
3. 勤怠管理・給与システム・情報管理体制の整備
改正案の多くは、勤務時間・休息時間・休日取得・割増賃金算定・兼業通算など、データ把握・実績管理・制度運用を前提としています。
- 勤怠管理システムが「連続勤務日数」「勤務間インターバル」「法定休日特定」「兼業時間通算」等を把握・アラートできるかの確認。
- 給与システムが「有給取得時の賃金算定」「休日労働・法定休日労働の割増率」「兼業通算対象外時の割増賃金計算」等に対応可能かどうか。
- 外部雇用(派遣・業務委託・クラウドワーカー)との契約形態・労働時間把握・適用範囲整理。
- 労働者データ・勤務実績データ・休暇取得実績データなどを蓄積・分析可能な運用体制の構築。
- 前記制度見直しにあたっては、システム改修・運用変更・教育研修等に要するコスト・スケジュールを早めに見積もることが望まれます。
4. 労働者・従業員への説明・周知・教育体制
制度の改正・運用見直しは、従業員側の理解・協力なくしてはスムーズに実行できません。特に以下の点が重要です。
- 改正制度の論点・影響範囲をわかりやすく整理し、従業員に説明(社内説明会・動画・FAQなど)する。
- 就業規則・勤務規程改定内容を、決定前・決定後ともに従業員に周知し、質問応答・相談窓口を設ける。
- フレックスタイム・テレワーク・兼業・休息時間・有給休暇取得など、新制度運用にあたっての行動指針・ルールを共有。
- 勤務設計・勤務実績管理・休息時間確保・オフタイム確保といった健康・安全配慮への意識を高める教育を行う。
- 労使協議の場・意見聴取の場を設け、「現場の声」を制度設計・運用改善に反映させる。
5. 改正後の運用モニタリング・継続的改善
改正制度を導入したあとも、運用が形骸化してしまわないよう、モニタリング・レビュー・改善体制を設けることが重要です。例えば:
- 連続勤務日数・休息時間・休日取得状況・有給取得率などのKPI(指標)を設定し、定期的に社内でチェック。
- 勤怠実績・シフト実績・休暇取得実績・兼業実態などを分析し、過重勤務・休息不足・休日未取得等のリスクを早期に検知。
- 制度運用上の課題・現場からの声を吸い上げて、就業規則・勤務規程・運用フローを改善。
- システム・運用プロセス・勤務管理制度・従業員教育に関して、継続的な改善体制を整備。
- 労使間コミュニケーションを活性化し、制度が「守られている」だけでなく「活かされている」状態を目指す。
●福祉・介護・保育など「働き方の現場」における視点
本稿をご覧の方の中には、福祉・介護・障がい福祉・訪問看護・保育・子ども支援など、社会福祉分野や現場に近い業種に携わる方も多いでしょう。こうした領域では、勤務シフト・夜勤・深夜勤務・変形シフト・交替勤務・休日出勤・宿直勤務・兼業者・パートタイム勤務など、多様な働き方が存在します。以下に、福祉・介護・保育等の現場で特に押さえておきたいポイントを整理します。
シフト・夜勤・連続勤務の現場
福祉施設・介護事業所・訪問看護では、夜勤・宿直・変形シフトが常態的に組まれている事業場が少なくありません。第1の「連続勤務の上限規制」や第3の「勤務間インターバル義務化」は、こうした現場にとって影響が大きくなります。例えば、夜勤明けの翌日の早い時間帯勤務・休息時間が十分取れない状態・連続勤務日数が長くなるといった状況は、被介護者・患者対応という観点からも安全・質の観点から課題です。
制度改正にあたって、福祉・介護事業所はシフト設計を根本から見直す必要が出てくる可能性があります。
休日・休暇・有給の取得促進
福祉・介護現場では、有給休暇を取得しづらい環境(人手不足・交代勤務・夜勤明け対応等)が指摘されてきました。第4の「有給休暇取得時の賃金算定見直し」は、有給休暇取得促進の契機となり得ます。事業所としては、「安心して休める職場」「休暇取得が制度として補完されている職場」を目指すことが、働き手確保・定着・職場満足度向上という観点からも重要です。
副業・兼業の働き方と人材確保
人手不足が常態化している福祉・介護業界では、副業・兼業を促進・許容する動きもあります。第5の「兼業・割増賃金通算見直し」の検討案は、副業・兼業を許容・運用している施設・事業所にとって重要な論点となります。兼業者の時間管理・勤務実績管理・割増賃金算定・休息確保を制度化しておくことは、リスク低減・運用健全化の観点から不可欠です。
テレワーク・ICT活用の視点
訪問看護・福祉支援・保育現場でも、ICTを活用した勤務・報告・連絡・記録業務などが増えています。第7・第8の検討案(フレックス・テレワーク対応・オフタイム確保)は、こうした業務形態・勤務形態に関係する論点です。例えば、訪問前後の報告・オンライン会議・メール・チャットが勤務外に及ぶと、実働時間換算・休息時間確保・勤務間インターバル確保という観点で課題が生じかねません。制度整備・運用見直しの視点が、福祉・介護現場にも重要です。
働き手定着・質の確保という観点
制度改正を前に、福祉・介護・保育の事業所に求められるのは「働きやすい・健康的に働ける・安心して休める」職場づくりです。連続勤務上限・休息時間確保・有給取得保障・休日明示・勤務場所・勤務時間の柔軟化などは、働き手の定着・モチベーション・介護・保育の質につながります。制度対応を単なるコンプライアンスと捉えるだけではなく、職場改革・働き方改革・人材戦略の観点から捉えることが重要です。
●よくある疑問と対応ポイント
法改正はまだ議論中であり、制度化・施行までには時間がありますが、企業・働き手ともに既に「どう準備すべきか」を考えておくことが肝要です。ここでは、よくある疑問と対応ポイントを整理します。
Q1:改正が確定しているのですか?
A. 現状(2025年時点)では、検討案の段階にあります。いくつかの報道・専門家サイトでは、早ければ2026年の法案提出・改正・施行もあり得るとされています。ただし、条文改正・施行時期・適用範囲・経過措置などは、今後の審議・政令・通知等で決まるため、確定ではありません。
そのため、企業・働き手は「改正の方向性を把握し、準備を進める」段階として臨むことが適切です。
Q2:中小企業・零細企業にとっての負担は?
A. 当然、就業規則改定・勤怠管理システム改修・運用変更・シフト再構築・従業員説明など、対応には一定のコストと手間がかかります。特に福祉・介護・保育など人手・交代制が厳しい現場では、勤務パターンを変更することが容易ではない場合があります。
ただし、改正目的が働き手の健康・休息確保・働きやすさ向上であることを踏まえ、「制度対応=人材定着・職場魅力づくり」の機会と捉えて、早期に準備を進めることがリスク回避・戦略的対応という視点から推奨されます。
Q3:働き手(社員・職員・パート)として何をすべきか?
A. 以下のポイントを押さえておきましょう。
- 自身の勤務形態・契約内容(所定労働時間・シフト・休日・休息時間・兼業許可)を確認する。
- 休息時間・連続勤務日数・休日取得状況・勤務間インターバルが設けられているかを意識する。
- 有給休暇取得時の賃金算定・休日制度・シフト制度について、事業所がどのように運用しているか、事前説明・規程を確認する。
- 副業・兼業を行っている・検討している場合は、勤務時間通算・割増賃金の取り扱い・契約内容・制度運用をきちんと理解する。
- 働き方・勤務実態・健康・休息・オフタイムの確保という観点から、自身のワークライフバランスを意識し、必要があれば事業所に相談・改善要望を出すなどのアクションも考えましょう。
Q4:どのようなスケジュールで準備すればよいか?
A. まだ確定ではないものの、次のような段階的な準備を想定するとよいでしょう。
- 今期~翌期:改正案の動向ウォッチ(厚生労働省・コンサル・社労士情報など)・自社の制度・実態の棚卸し。
- 中期(改正確定前):リスク・ギャップ分析(上記チェックポイント)・就業規則・勤務規程のドラフト検討・勤怠・給与システムの現状把握。
- 改正確定・法案成立直後:就業規則・規程改定・労使協定更新・システム改修・従業員説明・マニュアル整備。
- 施行直前~施行直後:運用開始・モニタリング開始・KPI設定・従業員教育・制度運用状況のレビュー。
- 継続運用:運用状況の年次レビュー・改善サイクル確立・従業員満足度・健康状況・休暇取得状況などの観察。
このようなスケジュール感で早めに準備を開始することで、制度改正による混乱・リスクを軽減できます。
●改正に向けた「働き方改革×人材戦略」の観点からの提言
単に法令への対応という“義務対応”にとどまらず、制度改正を機に「働き方改革」「人材戦略」「組織風土改革」という観点から捉えることが、これからの企業・事業所には求められています。以下に、提言の視点を整理します。
・「休息・健康・働きやすさ」を前提とした制度設計
労働時間・連続勤務・休息時間・休日取得というテーマは、人材定着・生産性・クオリティ・職場満足度と密接に結びついています。改正検討案に則って、単に“制度を守る”だけでなく、「働き手が安心して働ける環境」「疲労をためにくい勤務設計」「休息・リフレッシュを確保できる職場」につながる制度・文化を構築することが重要です。
・「柔軟な働き方」と「管理・健康確保」の両立
フレックスタイム・テレワーク・兼業・副業・変形労働時間制——こうした働き方の柔軟化は、働き手にとって魅力的であり、企業の人材確保・活用の観点からも有効です。一方で、勤務時間管理・休息時間確保・健康管理・労働時間実績の把握・制度運用という観点を疎かにしてしまうと、過重労働・コンプライアンスリスク・職場不満といった逆効果も生まれ得ます。柔軟性と管理の両面を制度設計・運用で意識することが求められます。
・「働き手視点・エンゲージメント視点」の制度改革
制度改正を企業側のコスト・リスクの観点だけで捉えるのではなく、働き手視点・働きやすさ視点・組織へのエンゲージメント視点から捉えることで、制度導入がむしろ「魅力ある職場づくり」の機会になります。例えば、有給休暇取得時の賃金保障や休息確保、休日制度明確化などは、職場満足度・ワークライフバランス・離職抑止につながる施策です。制度対応を「人材戦略・組織風土施策」として位置づけることをお勧めします。
・「業務設計・シフト設計・オペレーション効率」の見直し
働き方の制度を変えるということは、裏側にある「業務設計」「シフト設計」「勤務ローテーション」「代替要員」「勤務間インターバルの確保」「人員配置の最適化」など、オペレーションの見直しを伴います。特に福祉・介護・保育等の人手が厳しい現場においては、勤務設計の見直しによって「人員配置の無理」や「過重シフト」の防止につながる可能性があります。制度改革を契機に、業務プロセス・オペレーション設計を同時に見直すことをお勧めします。
・「システム・データ・モニタリング体制」の構築
制度変更に伴い、勤怠管理・勤務実績・休息時間・休日取得・兼業状況などを「見える化」することが重要です。デジタル対応・システム改修・データ蓄積・分析・改善サイクルを整備しておくことで、制度が「形骸化」するのを防ぎ、運用の実効性を担保できます。また、従業員満足度・健康状況・離職率・休暇取得率などをKPI化し、制度施行後も継続的に運用・改善していく姿勢が、働き方改革を次の段階に引き上げます。
●改正を機に新しい働き方と企業風土を
2026年に向けた労基法改正検討案は、単なる法的ルールの変更を超えて、「働き方そのもの」「働く者の休息・健康・生活」「勤務時間・休暇・休息のバランス」「働き手と企業の関係性の見直し」という、大きな転換点を含んでいます。
企業・事業所・働き手それぞれにとって、ただ「守るべきルールの数が増える」というだけでなく、「働くということをどう設計するか」「休むということをどう保障するか」「働きやすい・定着できる・活力ある職場をどう創るか」という視点を再考するチャンスでもあります。
特に福祉・介護・保育・障がい支援・訪問看護など、働く方々の現場が多様な勤務形態・交替勤務・夜勤・変形シフト・人手確保難という環境にある分、改正制度を先取りして「より働きやすい・休みやすい・安心できる職場づくり」を進めることは、人材戦略・サービスの質・組織の安定に直結します。
今からできることとしては、まず「制度の動向を把握」し、「自社・事業所の実態を棚卸し」し、「制度ギャップを洗い出す」こと。次に「就業規則・勤務制度・システム・データ管理体制・従業員説明・教育」を設計・整備すること。そして、「制度導入後の運用・モニタリング・継続改善」まで見据えることです。
法改正が“義務対応”で終わるのではなく、“働き方改革を前進させる機会”として活かされるよう、経営トップ・人事・現場管理者・従業員それぞれが主体的に動いていくことが肝要です。
本稿が、2026年に向けて制度改正の準備を進める皆さまの一助になれば幸いです。















